配列決定から生命現象の解明へ、さらに生命戦略の全貌にせまるために

分子生物学は、生物を「動く分子装置」としてとらえ、さまざまな生命現象に対する理解を深めるのに成功してきた。しかし1990年代に急速に発展したゲノム科学は、生物学研究のスタイルを一変させ、新しい潮流を生み出した。すなわち、個別の生命現象の理解から全体のしくみを推し測ろうとする帰納的アプローチから、ゲノムという生命の基本設計図を手に全体の構成を見ながら個別の現象を理解する演繹的アプローチへとパラダイムシフトをおこした。
GSCはこうしたゲノム科学の推進拠点として、1998年に設立された。以来、ヒトゲノム解読、マウス遺伝子百科辞典の完成、RNA大陸の発見、タンパク3000プロジェクトの完了など、生命科学の節目となる、国際的な成果を達成してきた。また、マウスやシロイヌナズナなど実験生物の変異株リソースの体系的開発をおこない、さらには、生命をシステムとして理解する上で重要な計算生物学の技術基盤の確立へ向けて挑戦をつづけてきた。
※各年号をクリックすると詳細を表示します。
- 1998
- 1999
- 10月
- 大容量DNAシーケンサーRISAの完成 高速大容量シーケンサーRISA(RIKEN Integrated Sequence Analyzer)が完成。従来の高速大容量シーケンサーに比べ4倍の処理能力をもち、1台8時間の稼動で約60万塩基対の解析が可能となった。

高速大容量シーケンサー「RISA」
- 2000
- 5月
- 世界に先駆けてヒト21番染色体の全解読に成功 GSCを中心とする国際チームは、国際ヒトゲノム計画の一環として、21番染色体の解読を終えた。GSCは約3400万塩基のうち50%を担当。98の新規遺伝子を発見したほか、動原体近傍と染色体末端に特色のある繰り返し構造を世界で初めて明らかにした。

ヒト21番染色体解読の論文が
掲載されたNature 誌
- 2001
- 2月
- マウスcDNAアノテーション情報の公開

マウス完全長cDNAの機能アノテーテョン
付けの論文が掲載されたNature誌
-
ヒトゲノムドラフト配列解析論文を発表 日、米、英、仏、独、中の6カ国20研究センターから構成される「国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアム」がヒトゲノムドラフトシーケンス解析論文を発表。GSCは、約203Mbのデータを取得・解析した。

ヒトゲノムドラフトシーケンスの記者発表 - 細胞が外部から分子を取り込むメカニズムの一端を解明

- 4月
- ISGO(International Structural Genomics Organization)を設立
- 2002
- 1月
-
世界初のヒト・チンパンジー比較ゲノム地図発表 チンパンジーゲノムのDNA断片約6万4000種の末端配列を決定し、ヒトとチンパン ジーを比較する世界で初めてのゲノム地図が完成。解析の結果、ゲノムのちがいはわずか1.23%(約3700万塩基)であることを明らかにした。
ヒト染色体上に配置したチンパンジーゲノム断片の全体像
- 3月
- シロイヌナズナ完全長cDNA約1万4600種を同定 「シロイヌナズナ遺伝子エンサイクロペディア(百科事典)」として、 世界に先がけてシロイヌナズナ完全長cDNA約1万4600個の解析をおこない、機能注釈をつけた。約2400種の新規の遺伝子を確認し、1万4000種におよぶ遺伝子の制御領域情報を明らかにした。

シロイヌナズナ
- 4月
-
タンパク3000プロジェクトとナショナル・バイオリソース事業を開始ナショナルバイオリソースプロジェクト
2002年から5ヵ年計画で進められてきた国家プロジェクト「ナショナルバイオリソースプロジェクト」では、24の生物種の遺伝資源の収集・保存・提供などをおこなっている。ゲノム機能情報研究グループの城石俊彦プロジェクトディレクターらは、「マウス・ミュータジェネシス」の中核機関として、マウス突然変異系統の開発を担当。化学変異原エチルニトロソウレア(ENU)を用いてランダムに点突然変異を誘発し、さまざまな表現型を体系的にスクリーニングするという独自の手法で、生活習慣病を含むヒト疾患モデルとなる多数の突然変異体を開発し、世界の研究者コミュニティーに提供している。
- 9月
- 受容体膜タンパク質「EGF受容体」における情報伝達のメカニズムを解明
- 2003
- 2月
- MDGARAPE-2Aを開発
- 4月

小泉首相(当時)にヒトゲノム完全解読
データの入ったCD-ROM(24 枚)を
手渡す榊センター長ヒトゲノム解読完了宣言ヒトゲノム解読完了宣言GSCを含む6カ国(日米英仏独中)18研究センターなどが参加する国際ヒトゲノムシークエンシングコンソーシアム(IHGSC: International Human Genome Sequencing Consortium)は、2003年4月、99.99%以上の高精度でヒトゲノム解読に成功したことを、6カ国首脳と共同で宣言した。1991年に解読が開始され、22番(解読完了1999年12月)、21番染色体(同2000年5月)解読につづき、2001年2月にはIHGSCとセレーラ・ジェノミクス社(米)が、それぞれドラフト配列(精度99.9%以上,未解読配列10%以上)を発表していた。タンパク質をコードするヒト遺伝子総数が約2.2万個と少ないなどの特徴が明らかになった。
- 4月
- DNAブックの試作版発表 cDNAを特殊な手法で印刷した「DNAブック」が完成。約6万個の遺伝子クローンを書籍として容易に頒布することができ、世界中の研究者に利用されている。

DNAブック試作版
- 2004
- 2月
-
グリッド上で次世代細胞シミュレータの開発に成功 グリッド技術を利用した次世代細胞シミュレータ「OBI YAgns(Yet Another Gene Network Simulator)」を開発。計算時間の短縮に加え、インターネットを通した複数ユーザーの同時利用が可能となった。

OBI YAgnsの全国同時利用
- 4月
- ゲノムネットワークプロジェクト開始
- 7月
- 細胞分裂に必須のタンパク質「コヒーシン(染色体接着因子)」の動きをとらえることに成功
- 2005
- 9月
-
大規模RNA解析の成果を論文発表、「RNA新大陸」の発見RNA新大陸
遺伝子構造・機能研究グループの林良英プロジェクト・ディレクターらは、マウスの完全長cDNAを採集するなかで、そこから転写されたRNAがどのようなタンパク質の合成に使われているのかについても検討した。すると、実に53%以上が、タンパク質を作るためには使われないncRNAとして転写されていることがわかった。ncRNAは遺伝子発現調節を担うことで細胞分化に関与するなど、多彩な機能をもつことがわかってきており、ゲノム研究に現れた新たな大陸として注目されている。
タンパク質の合成に使われないRNA(ncRNA)が大量に存在することを発見。さらにそれらが、遺伝子発現の制御をはじめとするさまざまな機能をもつことを示唆し、これまでの定説をくつがえす大発見となった。
RNA新大陸
- 生命の遺伝暗号表を構築するタンパク質の立体構造を解明

- 2006
- 1月
- チンパンジーY染色体の塩基配列解読とヒトとチンパンジーのDNA配列比較解析結果を論文発表 チンパンジーY染色体の塩基配列解読に成功。ヒトのY染色体との比較からY染色体では進化速度が速いことなどを示した

チンパンジーのゴン - 新型インフルエンザに対応するためのタンパク質立体構造データベースを世界に公開

- 6月
-

MDGRAPE-3ボード
138台のサーバーが並ぶMDGRAPE-3システム1ペタフロップスの高速専用コンピューターシステムを構築分子動力学シミュレーション専用コンピューター「MDGRAPE-3」を開発。理論的なピーク性能は1ペタフロップス、つまり1秒間に1000兆回の演算をおこなう能力をもつ。MDGRAPE-3システム情報生物学研究グループの泰地真弘人チームリーダーらは、世界最速の専用コンピューターシステムMDGRAPE-3を、2006年に完成させた。
MDGRAPE-3は分子動力学シミュレーションに特化した専用計算機で、1ペタフロップスのピーク性能を誇る。MDGRAPE-3の完成によって、生体内の分子の動きを精度よく見られるようになり、タンパク質のはたらきや病気を引き起こす原因を原子レベルで調べることが可能になった。また、医薬品候補物質がどのようにタンパク質と結合して作用するかをシミュレートできるため、新薬の開発に貢献すると期待されている。
- 8月
-


人工塩基対「Ds-Pa」遺伝子の新しい文字「人工塩基対」の開発に成功天然の塩基対に近いレベルの複製機能をもちあわせた人工塩基対「Ds-Pa」の開発に成功。複製・転写・翻訳の3つの機能を兼ねそなえた世界初の人工塩基対が実現した。人工塩基対タンパク質構造・機能研究グループの平尾一郎チームリーダーらは、「Ds」と「Pa」とよばれる2種類の人工塩基を開発した。自然界の塩基は必ずAがTと、GがCと対を作り、たがいの塩基は水素結合で結ばれるが、DsとPaは水素結合ではなく、たがいの分子の形に由来するフィッティングのみで対を作る。Ds-Pa塩基対は、PCRにより試験管内で高精度に複製することができ、さらにRNAポリメラーゼを用いてRNAに転写させることも可能なため、医療や食品分野で有用な人工の核酸、アミノ酸、タンパク質の合成につながるとして期待されている。

- 10月
- ゲノムデータベースの検索ソフト「オミックブラウズ」を無償公開 ゲノム上に存在する遺伝子などのさまざまなアノテーション情報に関する多数のデータベース群を同時に検索して可視化するソフト「オミックブラウズ」を開発、公開した

「オミックブラウズ」のトップページ - 共生細菌「カルソネラ」から生物界で最小となるゲノムを発見

共生細菌カルソネラ
- 11月
- 高速にペプチドの凝集シミュレーションに成功
2006年ゴードンベル賞を受賞詳細 - エジンバラ大学と基本協定を締結
- 2007
- 1月
- ペルオキシソーム酵素を成熟型へ変換させるタンパク質を発見

- 2月
- 肝臓がん原因タンパク質の構造と機能を解明

-
新規遺伝子診断技術「SMAP法」を開発 超高速等温DNA増幅法「SMAP法」の開発に成功。血液1滴から30分で薬効や副作用の診断が可能な技術として、国内外で臨床研究も開始された。

SMAP法で用いる検査試薬
- 3月
- タンパク質生合成工場「リボソーム」との相互作用による翻訳伸長因子の活性化メカニズムを解明

- 生命の遺伝暗号表構築における「生きた化石」タンパク質の立体構造を解明

- タンパク質生合成の最初の瞬間をとらえることに成功

-

タンパク質の立体構造図
左は糖鎖結合タンパク質ヒトガレクチン4、
右は免疫系遺伝子の発現抑制にかかわるヒトZFATタンパク3000プロジェクト終了
最終的に2675のタンパク質の立体構造を決定タンパク3000プロジェクト5年間でタンパク質の基本構造3000種類の解析を目標に掲げた、文部科学省主導の国家プロジェクト「タンパク3000プロジェクト」が2007年3月に終了した。タンパク質構造・機能研究グループの横山茂之プロジェクトディレクターらは、網羅的解析の拠点として2675個の構造決定を成しとげ、プロジェクトを成功に導いた。良質な試料を大量に合成する試料調製の全自動化を可能にし、スピードを飛躍的に向上させることにも成功。世界に大きなインパクトを与えるとともに、構造プロテオミクスの発展に大きく貢献した。
- ナショナルバイオリソースプロジェクト終了 最終的に399種の変異体マウスを作製
ゲノム機能情報研究グループが実施

- 5月
-
うつ病モデルマウスの開発に成功 統合失調症に関与するといわれていた遺伝子Disc1にアミノ酸置換変異をもつマウス2系統を開発。この系統が統合失調症だけでなく、うつ病のモデルマウスになることを明らかにした。

統合失調症(左)およびうつ症状(右)を呈したマウスでは
平均すると脳容積がそれぞれ13%、6%減少していた
- 細胞外から細胞内へ分子を取り込む細胞膜陥入機構を解明